「経営会議の前になると、各部門のコメントを集めて資料にまとめるだけで数日かかる」「予算と実績の差の理由を、毎月ゼロから調べ直している」——経営企画の現場から、よく聞く悩みです。
結論から言うと、経営企画部門のAI活用では、各部門コメントの集約・経営会議資料の骨子づくり・予実差異の要因整理・市場や競合の調査の要約といった「情報の整理と下書き」をAIに任せ、戦略の選択・投資の意思決定・目標値の設定・社外に出す内容の最終確認は人に残すのが基本です。 任せる範囲を最初に線引きすることが、安全に成果を出す条件になります。
この記事では、経営企画部門にAIが効く理由、7つのユースケース、AIに任せてはいけない判断、未公開の経営情報の扱い、会議資料づくりの試算、小さく始める進め方を解説します。弊社(株式会社 DeploAI)は、FDE(Forward Deployed Engineer/フォワードデプロイドエンジニア)として、AI導入を現場に入り込んで実装から成果まで伴走しています。経理・人事・総務・法務を横断して見たい方はバックオフィス(管理部門)のAI活用も参考になります。本記事は、経営企画に絞った深掘りです。経理は経理部門のAI活用、人事は人事部門のAI活用、購買・調達は購買・調達部門のAI活用で扱っています。
経営企画部門にAIが効くのはなぜ?
経営企画部門は、複数の部門から情報を集め、整理し、経営層が判断しやすい形に書き直す業務が多く、文章の要約と書き直しを得意とする生成AIと相性が良い領域です。 効きやすい理由は3つあります。
- 集める情報が散らばっている:数字は会計や販売のシステム、コメントはメールや各部門の資料、議論の経緯は過去の議事録と、置き場所がばらばら。集めて揃える作業に時間がかかる
- 同じ形の資料を繰り返し作る:月次の経営会議資料、四半期の報告、年度の計画など、型が決まった資料を毎期作っている
- 読み手ごとに書き直す:同じ内容を、経営会議向け、取締役会向け、現場向けに言い方を変えて出す
一方で、経営企画は会社の方向性と数字の見せ方を決める経営層を支える部門です。判断の責任が経営陣にあるぶん、「AIに任せてよい範囲」の線引きが重要になります。
経営企画のAI活用、7つのユースケースは?
経営企画のAI活用は、情報を集める、数字を読む、外を調べる、会議を回すという4つの流れに分けて考えると整理しやすくなります。 下の7つは、任せやすい順の目安です。
経営企画のAI活用の4領域。いずれも、経営の判断そのものではなく「情報の整理と下書き」を任せる。
| # | 領域 | ユースケース | AIに任せること | 人が持つこと |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 集める | 各部門の報告・コメントの集約 | 提出されたコメントを同じ見出しに揃え、要点を要約。未提出の部門の洗い出し | 内容の確認、部門への問い合わせ |
| 2 | 集める | 経営会議資料の骨子づくり | 過去の資料と今月の材料から、章立てと論点の下書き | 何を経営に伝えるかの取捨選択、最終稿 |
| 3 | 数字を読む | 予実差異の要因整理 | 差異の大きい項目の抽出、各部門の説明との突き合わせ、説明文の下書き | 要因の解釈、打ち手の判断 |
| 4 | 数字を読む | KPI・経営指標の定点レポート | 数値の取得と、前月・前年との比較の文章化 | 指標の定義、結果の評価 |
| 5 | 外を調べる | 市場・競合の調査の要約 | 公開情報の収集と要約、出どころの明示 | 調査の観点の設定、示唆の読み取り |
| 6 | 会議を回す | 会議の議事録と決定事項の整理 | 議事録の下書き、決定事項と宿題の抽出 | 決定内容の確認、宿題の優先順位づけ |
| 7 | 会議を回す | 宿題・進捗の追跡 | 期限の事前通知、遅れの検知、確認依頼の下書き | 遅れへの対応判断、部門との調整 |
深掘り①:予実差異の説明で、AIは何を出し、人は何を決めるのか
予実差異の整理でAIが出すのは「差異の大きい項目の抽出と、各部門の説明を突き合わせた下書き」までで、要因の解釈と打ち手の判断は経営企画と経営層が行います。
毎月の予実の資料は、差異の数字を並べるだけでは経営層に伝わりません。「なぜそうなったか」と「次にどうするか」が求められます。ここでAIが、次のような一次対応を行います(以下は説明用の仮の例です)。
- 差異の大きい項目を抜き出す:予算との差が大きい項目や、前年から大きく動いた項目を、決めた基準で抽出する
- 各部門の説明と突き合わせる:数字の動きと、各部門が提出したコメントを並べ、説明がない項目や、数字とコメントが食い違う項目に印をつける
- 出どころを添える:文中の数値が、どの表のどの行から取ったものかを示し、人が元の数字を確認できるようにする
経営企画の担当者は、この下書きを起点に、その差異が一時的なものか構造的なものか、経営として何を判断すべきかを整理します。数字の意味づけは経営の文脈に依存するため、これは人が持つ判断です。
深掘り②:「資料を作らせる」前に、何を整えておくか
経営会議資料の下書きの精度は、AIの性能より、「良い資料とは何か」がどれだけ文書として整っているかで決まります。 基準が担当者の頭の中にしかないと、AIは何をどの順で書けばよいか分からず、できあがった下書きが使われません。
- 資料の型を決める:章立て、各章で答える問い、使う図表を、過去の資料から整理して書き出す
- 数字の定義を揃える:売上や利益、KPIの定義が部門ごとに違うと、集約も比較もずれる
- 過去の議論と決定を探せる状態にする:どの会議で、何が、なぜ決まったかが残っている
整え方の考え方はAI活用のためのデータ整備は何から始める?にまとめています。数字を自然な言葉で問い合わせる方法は生成AIでデータ分析はどこまでできる?で扱っています。
経営企画でAIに任せてはいけない判断とは?
戦略の選択、投資や撤退の意思決定、事業の優先順位づけ、目標値の設定、社外に出す内容の最終確認のように、会社の方向性と説明責任に直結する判断は、AIに最終判断を任せず、人が責任を持って決めるべきです。 理由は、決定の理由を経営陣が株主・従業員・取引先に説明する責任があること、判断には自社の方針や数字に表れにくい要素が含まれること、AIの出力には誤りが含まれる可能性があることの3点です。
線引きを一覧にすると、次のようになります。
| 区分 | 例 | AIの関わり方 |
|---|---|---|
| 任せやすい | 各部門コメントの要約、議事録の下書き、期限の通知、定型レポートの文章化 | AIが下書き・処理し、人が事後に確認する |
| 材料づくり | 予実差異の整理、市場・競合の調査の要約、会議資料の骨子、選択肢ごとの前提の洗い出し | AIが整理・提案し、人が内容を確認して判断する |
| 任せない | 戦略の選択、投資・撤退の判断、事業の優先順位、目標値の設定、社外発表の最終内容 | 人が決める。AIは判断の材料の提供にとどめる |
また、AIが書いた文章や数字を、そのまま経営会議や社外への資料にすることは避けます。特に、社外に出る資料や、株主・取引先に関わる内容は、必ず人が元の数字と照らして確認してください。なお、開示や契約に関わる論点には、社内の規程や法令が関わる場合があります。判断が難しい論点は、社内の担当部署や専門家に確認してください。
未公開の経営情報は、どう守る?
経営企画のAI活用では、「AIに何を読ませるか」「誰が見られるか」「どこに保存されるか」を先に決めることが、最大の安全策です。 経営計画、業績の見込み、組織の変更などは、社外はもちろん、社内でも見られる人を限るべき情報を含むためです。
- 読ませる範囲を絞る:対象の業務に必要な資料に限り、関係のない機微な情報は読ませない設計を基本にする
- 権限を区別する:誰がどの資料やデータを見られるかを分け、全員が全資料を見られる仕組みにしない
- 情報の区分を決める:未公開の経営情報や人事に関わる情報など、AIに入力してよい区分と、入力しない区分を、社内の規程に照らして決める
- 保存と送信先を確認する:入力した内容がどこで処理され、保存されるかを、利用するサービスの契約や設定で確認する
- 自社環境での運用も検討する:機微な情報を扱う場合は、外部サービスに出さず自社の環境で動かす構成を選ぶ(生成AIを自社環境で動かすには?)
- ログを残す:何を入力し、AIが何を根拠に出力したかを記録し、あとから確認できるようにする
守り方の全体像は企業の生成AI活用、セキュリティはどう担保する?、記録の残し方はAIエージェントの監査ログ・証跡管理で扱っています。
具体例:月次の経営会議資料づくりの工数を試算すると?
経営企画の業務は、頻度と1回あたりの時間を仮に置いて見積もると、AI活用の優先度を判断しやすくなります(以下はすべて説明用の仮の数値です。実際の時間や削減効果は、資料の形式と自動化の設計次第で変わります)。
部門が10ある会社で、経営企画の担当が2名、毎月の経営会議資料を作っているとします。各部門のコメントを集めて同じ形式に揃え、要点を要約する作業が、1部門あたり仮に30分とすると、月に5時間(10部門 × 30分 ÷ 60分)です。予実の差異を抜き出して各部門の説明と突き合わせる作業が、仮に月8時間かかるとすると、この2つで月13時間になります。
ここを、AIが各部門のコメントを揃えて要約した下書きと、差異の大きい項目の突き合わせ結果を先に示し、担当者が内容と数字の出どころを確認して直す流れにすると、「ゼロから集めてまとめる時間」が「下書きを確認して直す時間」に変わります。
浮いた時間は、差異の背景を部門に聞き込む、打ち手の選択肢を整理する、経営層との論点のすり合わせといった、人にしかできない業務に回せます。経営層から見ても、会議の前日に数字を急いで直すのではなく、論点の議論に時間を使える効果が期待できます。
ただし、AIが正しく下書きを作れるのは、各部門のコメントが決まった形式で出され、数字の定義が揃っている範囲です。提出の形式がばらばらで、数字の定義が部門ごとに違う場合は、先にそれらを整えることが出発点になります。
経営企画のAI活用は、どう小さく始める?
始め方は、経営企画の業務をすべて対象にせず、「毎月の経営会議資料のうち、各部門コメントの集約と要約」のような1つの業務に絞り、小さく試して広げることです。 次の流れで進めます。
- 1つの業務に絞る:頻度が高く、資料の型が決まっていて、誤りを人が確認して直せる業務を選ぶ(選び方はAI活用のユースケースはどう優先順位をつける?、棚卸しの考え方はAI導入に業務棚卸しは必要?を参照)
- 根拠となる資料を整える:資料の型、数字の定義、過去の資料と決定の記録を、最新の一つにそろえる
- 任せる範囲と引き継ぎ条件を決める:AIが整理する範囲、人に回す条件(社外に出る資料・金額の大きい論点・機微な情報など)、読ませない情報を決める
- 小さく試し、精度を測る:過去の月の資料で、AIの下書きと実際に出した資料を比べ、数字の誤りや要点の見落としの傾向を見る
- 範囲を広げる:精度と運用に問題がなければ、予実差異の整理や市場調査の要約など次の業務へ広げる
AIが誤ったときの対処はAIのハルシネーション対策、人への引き継ぎ設計はAIエージェントから人へどう引き継ぐ?を参照してください。出力の質を測る方法は生成AIの評価(Evals)、効果の考え方はAI導入の費用対効果(ROI)はどう考える?にまとめています。
経営企画のAI化は、DeploAIのFDEでどう進める?
FDE(Forward Deployed Engineer/フォワードデプロイドエンジニア)は、事業と業務を理解したエンジニアが現場に入り込み、御社の実際の業務フロー・システム・権限に合わせてAIを組み込み、社内に残す形で支援するサービスです。
経営企画のAI化でつまずきやすいのは、「便利そうなAIツールを入れたが、自社の資料の型や数字の定義に合わせた設計ができず、下書きが使われない」という状態です。FDE は、この溝を埋めます(FDE の全体像はFDEとはを参照)。
- 経営企画の業務フローと既存システムを確認し、どの業務にAIを使うかを一緒に絞る
- 資料の型と数字の定義にもとづく下書きの作成、数字の出どころの表示と人への引き継ぎを組み込む
- 機微な情報の扱いと権限の区別を設計し、人が最終判断する運用を仕組みとして残す
- 出力の質を測る評価のしくみ(evals)を作り、定着支援・改善まで伴走する
サービスの工程には、現状診断、プロトタイプ作成、ツール連携、評価のしくみの構築、定着支援・改善、内製化スキル移管が含まれます。進め方はサービス内容、費用は料金をご覧ください。近い業務の例はユースケース紹介でも確認できます。
まとめ
- 経営企画部門は、情報を集めて整理し、読み手に合わせて書き直す業務が多く、生成AIと相性が良い
- ユースケースは集める・数字を読む・外を調べる・会議を回すの4領域。最初の候補は、各部門コメントの集約と要約
- 戦略の選択・投資の判断・目標値の設定・社外に出す内容の最終確認など、会社の方向性と説明責任に直結する判断は、AIに任せず人が決める。AIは判断の材料づくりにとどめる
- 未公開の経営情報の扱いは、読ませる範囲・権限・情報の区分・保存先・自社環境の検討・ログを先に決める
- 始め方は、1つの業務に絞り、資料の型と数字の定義を整えて小さく試し、広げる
経営企画の集計・資料づくりをAIで軽くしたい方は、お問い合わせからご相談ください。